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東京地方裁判所 昭和63年(カ)1号 判決 1988年7月28日

再審原告 松田龍次

右訴訟代理人弁護士 岡本敬一郎

再審被告 大西正一

<ほか七名>

主文

一  本件再審の訴(新たに追加した主位的、予備的請求を含む。)を却下する。

二  再審原告の独立当事者参加の申立を却下する。

三  再審訴訟費用は再審原告の負担とする。

事実及び理由

第一再審請求の趣旨及び不服の理由

一  再審請求の趣旨

再審原告は、独立当事者参加をなし、若しくは債権者代位権を行使して、

「1 原判決を取り消す。

2 再審被告大西正一の再審被告平岡徹、同渡部愛子、同大木朝治、同大木照章、同石川孝子、同中野早苗、同冨野眞弓に対する請求を棄却する。

3 (新たに追加した請求)

(一)  主位的請求

再審被告らは、再審原告に対し、連帯して金六五〇万円及びこれに対する昭和五六年六月一日から支払ずみまで年三割の割合による金員を支払え。

(二)  予備的請求

再審原告に対し、再審被告平岡徹、同渡部愛子、同大木朝治はそれぞれ金一三〇万円、再審被告大木照章、同石川孝子、同中野早苗、同冨野眞弓はそれぞれ金六五万円及びいずれも右各金員に対する昭和五六年六月一日から支払ずみまで年三割の割合による金員を支払え。

4 再審訴訟費用は再審被告らの負担とする。」

との判決並びに3、4項につき仮執行宣言を求める。

二  不服の理由

1  (確定判決の存在)

再審被告大西正一(以下「再審被告大西」という。)を原告、その余の再審被告ら(以下「再審被告平岡ら七名」という。)を被告らとする東京地方裁判所昭和六二年(ワ)第一三〇四九号建物収去土地明渡請求事件(以下「前訴訟」という。)につき、同裁判所は昭和六二年一一月一八日「1被告らは原告に対し別紙物件目録二記載の建物を収去して別紙物件目録一記載の土地を明渡せ。2訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決(以下「原判決」という。)を言い渡し、右判決は同年一二月一五日確定した。

2  (当事者適格)

再審原告は、別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)に設定した抵当権に基づき競売開始決定を得てその旨の差押登記がなされた抵当権者であって、原判決の効力により直接被害を受ける第三者であるから、本件再審の訴を提起するについて当事者適格を有する。

3  (再審事由)

原判決には以下に述べるとおり民事訴訟法四二〇条一項三号、五号、六号、九号の準用あるいは類推適用による再審事由がある。

なお、再審原告が右事由を知ったのは昭和六二年二月六日である。

(一) 再審原告は、昭和五五年三月までに再審被告平岡ら七名の被相続人田口タツ(以下「訴外田口」という。)に対し、合計金五五〇万円の未払い工事請負代金債権及び貸金債権を有していたが、訴外田口がその返済をしないため、訴外田口と再審原告との間で、訴外田口所有の本件建物を再審原告が金九〇〇万円で買い取り、その売買代金の内、手付け金四〇〇万円にこれまでの未払い工事代金と貸金を充てて精算し(再審原告の訴外田口に対する債権残額は免除する)、残り五〇〇万円の残代金については、金一〇〇万円を本件建物の敷地である別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)の地主である再審被告大西の承諾が得られた時点で支払い、本件建物の所有権移転登記と引き換えに残額四〇〇万円を支払う、これは地主の承諾料に充てるとの約定の下に借地権付き建物売買契約を締結しようという話になった。

(二) そこで、昭和五五年三月九日に東興信用組合平井支店から再審原告及び訴外田口の代理人である再審被告渡部愛子が再審被告大西に、「本件建物を売買するので借地権譲渡を承諾して欲しい」旨電話したところ、再審被告大西から「いいですよ。晦日(昭和五五年三月末日)に来て下さい。」との口頭の承諾がえられたので、再審原告は訴外田口の代理人として来ていた再審被告渡部愛子に売買代金のうち一〇〇万円を同支店内で支払った。ところが、再審被告大西は、再審原告が昭和五五年三月末日に再審被告大西宅を訪ねたところ、「本件建物は自分の娘に使わせたいから」などと言って前言を翻し、承諾しないと言い始めた。

何が何でも本件建物を欲しいと思っていた訳ではない再審原告とすれば、再審被告大西が三月九日に一旦承諾したため訴外田口に一〇〇万円を支払ってしまったのであるから、そのまま引き下がる事も出来ず、再審被告大西に何とか考え直して承諾してくれるよう懇願して別れた。

(三) しかし、結局一年以上たっても再審被告大西の承諾が得られなかったため、再審原告は本件建物の所有権移転をあきらめ、訴外田口との間で、これまでの未払い工事請負代金と賃金の合計金五五〇万円と昭和五五年三月九日に建物売買代金の一部として支払ずみの金一〇〇万円を一括して、金六五〇万円の準消費貸借に切り換えたうえ、右債権を担保するため昭和五六年一〇月二三日本件建物につき債権額六五〇万円の抵当権を設定しその旨の登記をなすと共に、右抵当債務の不払を停止条件とする本件建物の代物弁済契約を結んでその旨の仮登記をなし、更に、右抵当債務の不払を停止条件として譲渡・転貸ができる特約付きの本件建物の賃貸借契約を結んでその旨の仮登記をした。

(四) 訴外田口は、右抵当債務を支払わないまま昭和六一年二月三日死亡した。そのため再審原告は、訴外田口の相続人である再審被告平岡ら七名が本件土地の賃料を支払わないことにより本件土地の賃貸借契約が解除されることを慮り、昭和六一年三月、四月、五月の各末日、七月、九月の各一七日、一〇月三〇日、一二月二〇日、昭和六二年一月四日、三月一五日に利害関係ある第三者として再審被告大西のもとに現金を持参して本件土地の賃料を受け取ってくれるよう依頼したが、いずれもその受取を拒絶された。そこで、再審原告は、弁護士岡本敬一郎に本件の解決を委任し、同弁護士は昭和六二年四月一一日再審被告大西宅を訪ね、同人に対し「死んだ田口タツに松田さんが債権をもっており、家を買い取る形で精算することを希望しているが、承諾してもらえなければ、近日中に建物の抵当権の実行を申立てるつもりだ。」と伝えた。

しかし、その後再審被告大西からなんの連絡もなかったため、同弁護士は再審原告を代理して、昭和六二年六月一六日再審被告大西に対し、本件建物の抵当権を実行する旨通知し、同時に、昭和六一年一月分からの本件土地の賃料を現金書留で郵送した。しかし再審被告大西は、昭和六二年六月二四日、訴外田口の賃借権を認めていないから受領しないとして送りかえして来たので、再審原告は止むなく、同賃料に遅延利息を付したものを昭和六二年八月一〇日に供託して以降利害関係ある第三者として本件土地の賃料の供託を続けていた。

ところが、その後判明したところによると、再審被告大西が訴外田口の相続人である再審被告平岡ら七名に解除の意思表示をなしたのは昭和六二年七月一二日頃というのであるから、再審原告が本件土地の賃料を郵送した時は未だ再審被告平岡ら七名の借地権を否定しようのない時期であった。従って、再審原告の送った賃料は第三者弁済として有効なものである。

(五) 再審原告は、訴外田口の相続人の確定に昭和六二年八月一七日まで要したので、それから相続の代位登記を申請したうえ、昭和六二年九月末に本件建物の抵当権実行を申立て、昭和六二年一〇月五日競売開始決定を得て、翌一〇月六日に本件建物につきその旨の差押登記がなされた。

(六) 前記のとおり、訴外田口は抵当債務を履行しないまま昭和六一年二月三日に死亡したので、本件建物についての停止条件付き賃貸借契約の条件が成就し、再審原告は本件建物の賃借権を取得した。そこで、再審原告は本件建物を転貸することにより少しでも債権の回収を図ろうとし、自らの正当なる借家権に基づき本件建物を昭和六二年八月一二日まで占有していたが、同日付けの東京地方裁判所昭和六二年(ヨ)第五〇八七号仮処分決定により本件建物は執行官保管となって占有を解かれてしまった。しかし、本件のごとく再審被告大西が申立てた仮処分により占有が執行官に移った場合は、その申立てた債権者である再審被告大西との関係では、再審原告は本件建物の占有なしに右借家権を対抗できるというべきである。

(七) 再審被告大西は、以上のような事情を知悉しながら、再審原告の抵当権実行を妨げるべくやる気を失った再審被告平岡ら七名を相手に馴れ合い訴訟を仕組んで、あわよくば自己の貸した借地を無償で取り返そうと邪な考えを起こして、前訴訟を提起した。しかも再審被告大西は、再審被告平岡ら七名に対し本件建物収去と本件土地明渡を命ずる原判決だけで、再審原告に対する本件建物退去判決を得ることなしに、本件建物を取り壊してしまった。これは、再審原告の抵当権を侵害する不法行為である。

また、再審被告平岡ら七名は、前訴訟継続の事実を再審原告に連絡すれば、再審被告大西の主張が全て虚偽であり、再審被告大西の請求が全く理由のないものであることを明らかにすることが出来たのにそれをせず、あまつさえ口頭弁論に欠席して再審被告大西の主張を擬制自白した。これは過失による不法行為への加担である。

よって再審原告は、再審被告らの右不法行為により抵当権の被担保債権である元本金六五〇万円及びこれに対する昭和五六年六月一日から支払いずみまで年三割の割合による約定遅延損害金相当の損害を被ったので、再審被告らに対し、連帯して右損害の賠償を求める。

(八) 仮に、再審被告らに対する損害賠償請求が認められないときは、再審被告平岡ら七名は訴外田口の死亡により訴外田口が再審原告に対し負担していた前記抵当債務を、再審被告平岡徹、同渡部愛子、同大木朝治が各一〇分の二、再審被告大木照章、同石川孝子、同中野早苗、同冨野眞弓が各一〇分の一の割合で共同相続したので、再審原告は再審被告平岡ら七名に対し、各自が相続した右債務の支払を求める。

(九) 以上のとおりであって、前訴訟は、もし再審原告が参加しておれば当然防御方法を提出してその敗訴を阻止しえたものであることは明らかである。そもそも、実態を踏まえて考えれば、既に抵当権の実行の通知を受けた訴外田口の相続人である再審被告平岡ら七名は、本件建物にもはや利害関係を失っており、本件建物取り壊しにより深刻な被害を被るのは競売開始決定を得て、抵当権を実行中の、しかもその建物を賃借中の再審原告である。

かかる場合、前訴訟継続中に右訴訟の存在を知れば、再審原告は右訴訟に独立当事者参加して敗訴を阻止出来たのであるから、原判決確定後も独立当事者として再審を提起できるものと考えなければ、自己の権利がやる気の無い相続人達の馴れ合い訴訟や欠席訴訟で詐害されることを防ぎえないのであり、民事訴訟法四二〇条一項三号、五号、六号、九号の準用あるいは類推適用により、前訴訟の当事者である再審被告らを共同被告として、詐害訴訟に対する再審を提起出来るというべきである。

もし仮にそれが認められなくても、再審原告は再審被告平岡ら七名に対し、前記のとおり債権を有する債権者であるので、同人らの持っている再審申立権を代位行使する。

第二当裁判所の判断

一  本件再審原告の当事者適格の有無につき判断する。

ところで、再審の訴にかかる確定判決の当事者でない第三者であっても、右判決の効力を受ける第三者であって、判決の取消につき固有の利益を有する者については、再審の訴を提起しうる適格を有するものと解せられる。

しかしながら、原判決は右判決の当事者でない第三者たる再審原告に対し対世的に効力を及ぼすものでないことはもとより明らかであるうえ、前訴訟において参加の機会を与えられなかった再審原告が民事訴訟法七〇条の効力を受けることもありえないのであるから、事実上、反射的不利益を受けることは別として、いかなる意味においても原判決の効力が第三者である再審原告に及ぶことはない以上、再審原告は本件再審の訴につき当事者適格を有しないというべきである。

また、再審申立権が債権者代位の目的となりえないことも多言を要しない。

二  そうすると、本件再審の訴は不適法として却下すべきであり、したがって、再審原告において新たな請求を追加することも、また、当事者参加の申立をなすことも許されないから、右追加請求にかかる訴及び参加の申立も却下するほかなく、これらの欠缺は補正することができないので、民事訴訟法二〇二条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 土居葉子)

<以下省略>

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